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夜から夜へ3(短歌+散文)

  春の竜巻 垣根道山茶花はわれをとりかこみ書を捨てよわれを見よと言いおり 芭蕉葉の下にいるよな一日よバルガス=リョサを読みあぐねたり 翻訳のさきにあるべきインディオの神話を知ることなくココア飲む 知らぬ家の庭にのびたる梅の枝は屈折しつつわれを迎える 地獄には地獄の華やぎ天丼にふさと衣をまとう海老かな 一年後また会えるはずの山茶花が表象になり零れ落ちゆく 竹林に踏み入ればわれは棒人間そのまま図案になってしまいぬ 紅梅と竹林あらば花札のようなさ庭よぱらぱらと雨 切り株をみてると背中がむずかゆい間引きされたり孟宗竹も 湿布張る手にお抹茶をたて続け女は起こす春の竜巻   散文「春は○○」  私の庭に大きな花水木の樹が植えてあった。桃色の花は私の誕生日に合わせて花を開き、勝手に誕生木だと思っていた。根元にかつて飼っていた亀や金魚の亡骸を埋め、まさに私の幼少期の生の象徴のような樹だった。   砂糖菓子のやうな花びらのせてゐる花水木カチリと嚙みたし 梅内美華子『夏羽』  わが家の花水木は祖父がBSのアンテナを設置するのに妨げになるといって切り倒してしまったが、街路樹に花水木があるとつい古い友人のように目を向ける。ああ、たしかに花弁は昔よく食べた砂糖菓子のようかもしれない。私にとっての春は花水木の花弁である。 (短歌・散文ともにgekoの会 ネットプリントvol.10所収)  啄木の黒きもの 鶏卵がはじめて光にさらされて熱々ご飯とともに食われる 啄木の大いなる黒きものの歌なにかわからず暗き夜だな ブラックホールに地球呑まるが恐ろしく眠れぬ日々の少年のわれ 巻きひげを伸ばしてカラスノエンドウは春の濃き風つかんでおりぬ 物質が消え去るならばむしろよいブラックホールはわれの闇なり (ブラックホールネットプリント スーパーマッシブ所収)   平和島 2019.5.6文学フリマ東京にて 北海道の蟹の絵描かるるトラックがゆっくり車庫に納まってゆく さくらとつつじ等間隔に植えらるるコンクリートのひょうたん島に 車庫なればコンビニ行きのトラックも高圧ガスのトラックもある 旅人の街と言ったらかっこよく流通センター駅に飯なし 売れ行きのわるければ眠くなってゆくつつじの咲いた人工島で