コンアイコ歌集『骰子 dice』を読む

  4C企画による歌集作成講座「短歌を詠んだら歌集を編もう」の一冊。中綴じ製本で、糸で綴じられている。背から糸が見えており平綴じにない質感がある。短歌をつくることから、歌集に編むことに発展する際に、否応なく自分の歌に向き合うことになる。そこまで含まれた企画なのだ。

見なくてもああここトマト植わってるラジオ体操帰りのにおい

麺棒でたたく胡瓜の割れっぷり腹かっさばくなら早めに

 一首目、トマトの匂いは独特だ、というのも遺伝的にジャガイモに近いといわれており、果実の甘い香りではなく、ジャガイモのような野趣のある香りがするからである。主体はトマトの香りを身体的に捉えている。また、トマトを見ずして、現在、目の前に存在するトマトを感知しているのも面白い。視覚優位という言葉はよく聞くが、嗅覚優位の歌は珍しい。二首目、一首目の次の歌で夏野菜が並んでいる。俎板の鯉というが、俎板の上では鯉でも胡瓜でも腹がかっさばかれる運命にあるのだろう。口語で軽やかだが、ちょっとした加虐感覚があるのだろう。

冬枯れの飛び込み台のてっぺんはひたと見上げられたるわれに

鉄塔に鳥は来なくて雲だけが徹頭徹尾あなたを見てる

 序盤は口語の歌が多かったが、頁を捲ると一首目のような文語の歌が目に入ってきた。夏炉冬扇というよりは、冬枯れの飛び込み台は寂しげな光景である。主体はその飛び込み台に心寄せをするような心理状態であった。二首目は鉄塔が洒落になっている。一首目に引き続き、メランコリックな歌だ。飛び込み台や鉄塔など、無機質なやや郊外に位置するような場面が中盤以降描かれている。その中盤以降、メランコリックな抒情、文体の多様化がみられ深みが増していく。明記されていないが本歌集は編年体なのかもしれないと思った。歌集制作背景的に収録できる歌数は限られていたことが推察できるが、今後さらに多くの歌がまとまった形で読みたいと思った。