機能主義的アプローチの今日性

  社会福祉における相談援助の技法でアプローチというものがある。社会福祉学の理論的発展や、隣接する心理学や社会学から知見を接収し成り立った相談援助の理論や技法である。これにより系統的、効果的に相談援助や介入ができる。少し違うがカウンセリングの技法のようなものと捉えると馴染みがない人もイメージがつきやすい。なお、社会福祉的な支援はソーシャルワークと呼ばれるが、面談だけではなく地域づくりや政策提言など広域的な活動も含まれる。クライアントとの面談などの直接処遇をとりわけケースワークという。

 今回取りあげる機能主義アプローチは古い流派のひとつである。教科書的には世界恐慌(一九二九年)以降の大量の貧困問題に対して、福祉機関が対応すべく提唱されたというきっかけがある。当時のケースワークは診断主義ケースワークというものがあり、精神分析の影響が色濃く、処遇が長期かつ神秘化したことに対する批判も込められている。心理社会的な問題の原因や対処法を診断主義ケースワークはクライアントの内面に求める一方で、機能主義アプローチは社会という外面からアプローチする。のちに一般システム理論により社会はシステムであるという考えが一般化し、ケースワークに取り入れられたが、機能主義アプローチは先駆けでもある。機能主義アプローチにおけるケースワーカーは機関の機能を代表してクライアントと面談し、ニーズに応じてサービスの支給を決定することに主眼を置き面談をする。

 オットー・ランクの新フロイト派の思想がベースになっているというが、H・H・アプテカー『機能主義ケースワーク入門』を読むといささか印象が異なる。アプテカーはクライアントは問題を抱えた存在なのではなく、人間がもつ創造性を重視したが、新フロイト派における自我の自律性は抑圧により正常に機能しなくなると捉えている。ややランクよりアプテカーの自我の捉え方のほうが楽観的というか、肯定的なのである。アプテカーは『機能主義ケースワーク入門』で、機能主義アプローチはランクの影響を受けたことは認めつつも、新フロイト派の精神分析とは異なり、ケースワークの実践のなかで生まれたものであると述べている。アプテカーの自我への信頼は多くの事例に支えられた経験知によるものなのかもしれない。

 機能主義アプローチは大量の貧困問題に対して、福祉機関が対応すべく提唱されたものと先述したが、ゆえに粗さがある。質と量、どちらかというと量のアプローチである。クライアントとケースワーカーとの面談の関係性において、クライアントの創造的な展望に、機関の機能が沿うか否か、クライアントは機関の機能を利用する意志があるか否かに収束されてしまう。クライアントと機関(ケースワーカー)の関係性が面談の場を構築するため複雑な心理社会的問題には弱い。分かりやすい例を挙げるなら、介護と児童福祉と経済問題が複合的にみられるようなヤングケアラーなどは機能主義アプローチだと部分的な介入しかできない。こうした事例は複数の機関が介入する必要があるが、多機関の連携はあまり想定された場面ではない。また、支援機関の取り決めや、クライアントが支援を受け問題を解決しようとする意志の明確化を求めている。例えば支援の申請書などもその一貫として重視する。そうした面においては今日の申請主義的な硬直性のある官僚的なアプローチのように思えてしまう。

 官僚的なアプローチ、そこにケースワークの意義はあるのだろうか。『機能主義ケースワーク入門』においてはクライアントが適正に福祉機関を利用するということに意義を見いだす。具体例としては経済的な問題に関しては公的扶助を、児童養護施設の利用なら円滑な利用開始に問題の解決を見いだす。極めてシンプルで、支援の利用に際する生活の変化や心理的問題については、先のアプテカーいうように、人間は順応し成長する力があるのでそれを信じるとして、ケースワーカーはサービスの円滑な提供を第一に考えるべきとしている。少しドライだが、当時の大恐慌で膨大な支援の要請に応えつつ、実践の科学としての位置付けを保つには致したかなかったのだろう。

 また、アプテカーは葛藤についても重きをおいている。支援を受けるには恥や、何か社会生活に制約を受けるのではないかという不安がつきまとう。相談援助機関に出向いても抱えている問題を打ち明けられなかったり、支援が始まることに億劫に思い、抵抗が生じるという。抵抗には支援を受けたい気持ちと、受け入れられない気持ちの二重性がある。ケースワーカーも、もし困っているならサービスを提供するが、強制ではないと二重の応答が必要であるとしている。今日の準市場化した医療福祉業界では契約や自己決定は当然のように行われているが、機能的アプローチにおいては葛藤や二重性にクライアントのニーズはあらわれるとし、ケースワーカーの二重性の応答に対して、クライアントが意志を表明することで問題に向き合う人間的成長が生じることを期待している。

 機能主義アプローチが生まれた大恐慌で貧困問題が増加した背景と、現代の問題の人口動態の歪み、人手不足で相対的に心理社会的問題が増加した背景は共通点がある。また、機能主義的アプローチの特徴である、ケースワーカーが機関の機能と同一化するという点は、今日のケースワーカーは福祉施設や病院に給与所得者として所属し、相談援助に従事していることと同じことである。そして、二重性は自己決定として今日はサービス利用において当たり前のように重視される。機能主義アプローチは古い考え方であるが、今日的でもあるのである。

 機関の運営に伴う雑務、大量に抱えた案件、自己責任論めいた自己決定権の尊重、これらは現場のケースワーカーが辟易しつつ繰り返す業務である。クライアントのためになっているのか、機関の利益しか生まれないのではないだろうか、そもそも自分は専門職なのかなど疑問に思ったことがない人はいないだろう。機能主義アプローチはそれらの疑問に対して一つの正解を導き出すアプローチである。サービスの円滑かつ適切な利用を支援することが第一なので、日々の業務(中には雑務)にも一定の価値を見いだすことができる。機能主義的アプローチは今日の勤務しているケースワーカーが無意識に実践しているものであり、その実践はケースワークなのか、福祉機関や病院の歯車としての労働かわからなくなった迷えるケースワーカーとっては福音でもあるだろう。弱点を自覚しながら使うことができれば、多くの支援の要請に対応できる力があるアプローチである。