魚編
積み上がる資料の束は循環し回帰しわれのいさらい拭わん
爪と指のあいだに銀の針を刺すそんな皮肉をあたためており
つり革と乗客はそれぞれに揺る労働は喜劇だと気づいたか
社会的距離を伸ばして山奥に消えた男は民俗めいて
からっぽの電車は走る出生と死亡のあいだの人生の価値
狭山茶の味のかなめは火入れらし夕陽は街を炎につつむ
魚偏にうめつくされた湯呑あわれ熱き茶で口をぱくぱくしおり
「寿司店の美味しい日本茶!」間違いはないけど〈カートに入れる〉は押さず
菓子盆の亀屋の最中に投げかける鳶の眼光鷹の爪われ
朝を呼ぶスーパーカブは止まったり走りだしたりまれびとのよう
〈放置ゲー〉は勝手に強くなるゲームわが庭のアロエ棘のかいぶつ
クラスターは議事堂内のミドリムシ緑のかたまりぼとんと落ちる