金木犀の酒

 かりんの歌会のあとは二次会、三次会になだれ込むのが恒例だ。全体でいくこともあれば、若い衆で集まる気軽な日もある。2018年8月の東京歌会は三次会は若手でしかも3人程度の少人数だったので、かねてから気になっていた香港亭中野店にいくことにした。中野の赤ひょうたんやそのほか何件か開拓したり、再来店したりとしていたが、香港亭は線路沿いにあるので帰りによくとおるお店。半地下になっており、テラス席がある。看板はネオンサインのようになっており、電飾が並ぶ香港のイメージでかねてより行きたい店だった。
 印象に残っているメニューは塩麻婆豆腐と干豆腐、桂花陳酒だ。塩麻婆豆腐は塩の字のごとく白い麻婆豆腐だ。醤っぽさがないというのだろうか、あっさりしてそれでいて花椒や山椒の風味が効いている。干豆腐は中華の定番らしい。細く刻まれたしこしことした豆腐だ。食感が面白い。桂花陳酒は金木犀のお酒で、香りも華やで、ロックが正解かもしれない。飲みながら思い出すのは寺山修司『田園に死す』の「善人の研究」という長歌だ。〈花食ひたし、といふ老人の会あり。〉ではじまる長歌で、よく土着的とも評される後期寺山の世界観のうちのひとつの作品であろう。なんとなく柳田國男『遠野物語』を彷彿とさせる(恩田陸の『常野物語』も好きだ)。若い歌人が三人、香港のような店で花の酒を飲みながら文学の話をすると書いたら詩的だろう。なんとなく星菫派的な感じがする。そういえば歌林の会の先輩の話を聞くと、歴史のなかにところどころ中華料理屋が登場する。香港亭で花の酒を飲んだこともいつか誰かに話そうか。

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