夜から夜へ2(27首)

  杉になりたい

黄の花粉ふうとスマホに降りてきて見上げればクゥトゥルフの空なり

蒼き蒼き星の挿話の降りてきて寝言を電車でつぶやいている

カーテンを閉めれば小屋に引きこもり弥勒を掘りし仏師の空気

一瞥を路傍の花にくれまして運命論者は真っ直ぐ歩く

コンビニの羊羹は手のひらにあり日本的なる闇をたたえて

雨水路に沿って歩きぬ雨に記憶あるならわれにも染みをのこせよ

布団から出られずもぞもぞするわれは虫に変身しても詮なし

銭の木をむしり取っても挿し木には出来ない土壌が痩せているから

東京にか黒き森があらわれむ一本一本人の名もつ

樹木葬ならばわたしは杉がいい墓参の客は皆涙せよ

  あご

顎ひげの濃くなる夕べ青ひげ公なる妻殺しを思い出したり

美と学と金は相関していると心理学書に書かなくたって

過ぎし日の遺言のごとく飛んでくるTO DOリストのチェックボックス

長文の仕事のメールは虫の群れデリートキーを押して退治す

「いますぐに抱きしめてほし」と迫られる迷惑メールが二通来ており

青ひげは狂気のしるしじょりじょりと電動シェーバーもて刈り取りぬ

吸血鬼もしくは青ひげ公に満つ男性ホルモンぎらぎらしおり

菜の花を埋め立てマンション建てられつ地中に腐りゆく根の束よ

いちめんのなのはないちめんのなのはな記憶の中にしかないけれど

青ひげ公ちいさき鍵をふるえつつ妻に渡しき晴天の下

  埴輪

びゅうびゅうと風が鳴ったら平成の果に埴輪が穴の目向ける

ビル街に並ぶ埴輪よ独りでは生きられぬひとに添うたましいよ

穴の目の埴輪はたましいもて視ると和辻哲郎ほんとうかいな

朝一でわれのデスクに埴輪置きそのまま帰ればたのしくもあるか

よさこいの列は正しく進みゆく埴輪が古墳に並ぶごとくに

埴輪もつ闇の空洞おそれおりにんげんもまちも埴輪になるらし

音もなく辛夷の花がちりたればその下通るひとへの手向け