時雨れる釈迦牟尼 『恋衣』と『サンクチュアリ』

 鎌倉のとある寺院の庭にガンダーラ様の半跏思惟像がある。「なんか彫りの深い…」と君が指差して気づいた。なにせ梅の盛りで花もさることながら枝ぶりも、屈折多く粋なのである。

  鎌倉や御仏《みほとけ》なれど釈迦牟尼は美男《びなん》におはす夏木立かな 与謝野晶子『恋衣』
  ガンダーラ美男におわす釈迦像のもてすぎてつらいというほどの顔 大井学『サンクチュアリ』

 そのときふと晶子の歌つぶやきながら、君には鎌倉の仏像に美男と言ったのは晶子の手柄で云々ということを言った気がする。でも実際は大井の歌が頭の中にずっと残っていて、釈迦が王子だったときに恋はしたのかとか、出家ののちに葛藤はあっただろうななどと考えていた。そして、晶子と釈迦が会ったら何を話すのかなと。雨が降っているのもあって庭園にひとは少ない。