SF天狗 海野十三著『くろがね天狗』(一九三六・十/逓信協会雑誌)を読む

 海野十三の『くろがね天狗』(一九三六・十/逓信協会雑誌)に登場する天狗はまさに十三流といったところである。舞台は江戸時代で、天狗と囁かれている辻斬りが町を混乱に陥れている。室生犀星の『天狗』も謎めいた剣客が次第に天狗と呼ばれるようになるので共通項がある。天狗は人の形をしており、超人的な力を持っているので、どうやら町中で暗躍する怪人に対して天狗と人は呼ぶのかもしれない。怪人というと仮面ライダーを彷彿とさせるが、仮面ライダーも元々は改造人間で怪人になるはずだったわけで、仮面ライダーも天狗なのかもしれないなどと思うのであった。
 くろがね天狗は名の通り鋼鉄の体をしており、それに十三が書いた作品というと、ロボットだなと読者はわかってくる。脳波で天狗を操ったり、江戸時代なのに人の5倍のスピードで動く性能を持ち、取り合わせがなかなか面白い。また、開発者は恋の敗者で、ルサンチマンによりオーバーテクノロジーなロボットを製作するわけだが、最後は因縁深く深い傷をおって、世間から消えていく。普段はくろがね天狗は洞にしまってあって、男が狂気に染まると動くのである。暴走が前提にあるシステムは、製作者の意図的するところだ。たとえば鬼は情念が根底にあるが、天狗はそのあたりはもう少しドライで、元々人間であるが、幾分か人間性を捨てているように思える。そのため、天狗は無邪気に人に対しても悪戯をし、くろがね天狗はロボットなのである。本作では製作者が手負いになることで人間に戻る。また、天狗は隠遁性と、「天狗になる」というように高慢な態度があるように思われるが、鋼鉄の体をもったくろがね天狗もご多分に漏れずその性質を兼ね備えているところをみると、本作は荒唐無稽なSFではなく、ちゃんとした天狗の小説である。