天茶漬け

 所沢駅から5分ほど歩くと天ぷら屋椿という店がある。地元住民から愛されている天ぷら屋で、駅前の喧騒から離れているのにも関わらず、昼夜ともにほどよく繁盛している。手前にカウンター席があり奥に座敷があり、家具には詳しくないが両方とも、木目のテーブルにほどよく油の空気が馴染んでおり、老舗の感じがでている。
 天丼は天丼・中丼・上天丼・やさい天丼とあるがいつも中丼を注文する。九八〇円と手頃な値段で、サラダとお新香、味噌汁がついてるくるので満足だ。蓮根や海老、烏賊が油で光るご飯の上に乗っているのだが、まさか油で揚げられるとは思わなかっただろう。そして、刺し身とまた違う美味しさをもつこともまた、食べられる側には知る余地がないのである。主人をみてると食材を天ぷら鍋にいれて、しばらくしたら引き上げるという作業の連続だが、自宅と出来がまったく違うのはまさしく専門家といったところだ。
 北大路魯山人が天茶漬けについて書いており、余った天ぷらは、焙ってから飯の上に乗せて熱い茶をかけるといいらしい。そして美味い天ぷらのほど、天茶漬けは美味くなるらしい。魯山人の流儀で天茶漬けにありつく我儘を実行するには、自分で美味い天ぷらを作るしかあるまい。目玉焼きすらまともに作れぬわれには大きな宿題である。

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