小さな街の小さな物語 オー・ヘンリー『水車のある教会』を読む

 日本の夏は毎度のことながら不快指数が高い。いくら暑くても日中太陽に焼かれながらアイスを食べつつ散歩するのは最高なのだが、今年は新型コロナウィルスのためにマスクをつけているのでそんな風流に浸ることもままならない。人がまばらな道を歩くときにマスクを外すのだがそのときに、ぬるい風が吹いてくる。そのとき私は他県の移動を快く思われないこのご時世に、避暑を夢見るのである。
 アメリカのどこにあるかはわからないがレイクランヅという土地があるという。名前に反して湖もないし、取り立てて観光名所もない。鉄道沿線の小さな村で、松林のなかにあるらしい。避暑にはもってこいだが、穴場らしくごく少数の学者や画家、学生がぼちぼちみえるという。日本でいうところの夏のスキーリゾートといったところか。そんなレイクランヅに水車小屋のような教会がある。そこに僧侶のような小麦屋のエイブラム・ストロングという男が年に数回訪れる。
 レイクランドはフロリダ州に実在するが、高級そうな住宅街やミラー湖があることから、レイクランヅとは違う土地だと思われる。架空の小さな街のレイクランヅで、エイブラム・ストロングがヒューマにスティックに生きていくのだが、『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンをも彷彿させる生き様なのだ。最後はハッピーエンドなところが希望をもてる時代の作品であることを感じさせる。現実はどんでん返しもなく尻すぼみ的に終わるだろう。嗚呼無情である。本作品は短編小説なのでカフェでコーヒーとケーキを頼みながら読んだら、完食するうちに読み終わってしまう。仕事終わりに一服して、つかの間避暑をしつつ、心を温めるというのも悪くない。

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