かりん一首鑑賞2020年7月号

  さよならを言ってしまえば軽くなる泣きたる母をポッケに隠す 上石隆明

 父母に育てられ、自立して時が経ち今度は父母を介護する。少子高齢化社会が到来し、介護保険法により介護が一般化してきたあたりから、介護や高齢な親の歌が詠われだしたように思う。引用歌はまさに高齢の母の歌である。手を握ったり、話したりとコミュニケーションをとっているが、どこかで切り上げなくてはならない。そんなときに「じゃあまたね」などといいながらさよならをするのだが、もっと話したそうな高齢の親をみつつ立ち去るのは心苦しいことだ。上石はそんなさびしさを〈軽くなる〉と表現した。もしかすると、お別れのときに軽く声をかけることで自らの心も軽くしようとしているのかもしれない。泣いている母をポッケに隠すという比喩は願望もある。さよならを言うことでさっと立ち去れたそのあっけなさを、ポケットに隠して見えなくしたとも読めるし、お別れがわれも辛くてポケットに隠したいほどだという歌とも読める。どちらにせよ後ろめたさが出ており、心に響く歌である。

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