かりん一首鑑賞2020年11月

 かぁへれかぁへれ朝の黒鳥くりかへし帰れと啼きぬ産土の地へ 北辺史郎「かりん」(二〇二〇・十一)


 本能に片付けられない帰るという使命を動物は持っているように思う。帰るとは生きて帰ることであるし、諸説あるだろうが「いってらっしゃい」の掛け声は行って帰ってこいの意味である。引用歌はカラスを朝の黒鳥と表現しているが、カラスではなく精霊のような存在なのかもしれない。カラスはいまではごみ置き場を荒らしたり、クレバーで一筋縄にはいかない鳥という一般的な認識があるが、古事記、アイヌ神謡、エジプト神話でも神聖な鳥でもある。そんなカラスは毎朝かえれとわれに呼びかけるのだ。産土とはどこであろう。原風景や何かしらのルーツである土地、読者それぞれが思い起こしてもいいのだが、北辺のことを知っていると福島であろうという推測もはたらく。福島は住むところではなく帰る場所になってしまったのだ。そして、産土の地というほどわれから距離のある地になってしまった。前半のリフレインがなんとも情感がある。