ふふっと笑う かりん2020年7月号「若月集」より

  肌寒くなってきて冬にはまだまだとはいえ、秋ともいえない気候だ。若月集をみると夏の歌がみられ、今年の夏が随分むかしのような気がしてくる。コロナ禍は時間間隔も奪ってしまったようだ。


  締まらないねじは締まらないままにして日光東照宮のような机だ 川島結佳子

  夏の日のキッチンに立つあなたへと求人雑誌で風を送る役 岡方大輔


 川島の連作は机が届いて組み上げ配置するまでの一連だ。組み立て式の製品を購入すると、ねじが締まらなかったり、やたら部品が余ったりする。それはそれでしょうがないので不完全なまま生活に組み込まれるが、用は足りているのだ。次第にその瑕にも慣れてくるのが、日光東照宮のような感覚なのだろう。柱が一本逆さまになっているので完璧なものではないため魔が差さない、というゲン担ぎのようなものだが、この“細かすぎて伝わらないモノマネ”が面白い。岡方の歌はドラマや映画の一場面のように視覚的である。求職する気もあまり起きない暑い夏に求人雑誌で扇ぐのである。求人雑誌はうちわという役割を得て、オチが効いている。他にも面白い歌が数多くあったが、引用した二首はふふと笑える面白さがある。