習作集一・五 ひつじの乗り物 十二首

  ひつじの乗り物

仕事場のUSBの奥の奥「閻魔帳」というファイルがねむる

太りたる鼠(の死体)のかたちしたマウスを今日も強く叩きぬ

即席麺カツ丼の味が残りたるわが血が誰かに輸血さるらん

かつて牛だったおもかげトラックはやさしい顔して黒煙を吐く

半分がマスクに覆われ群衆が来訪神のように見えくる

水槽のネオンテトラの食べ方を十通り思いめぐらせていた

熱湯が紅茶に染まりゆくところ「考える人」の顔でながめる

ゆりかごと介護ベッドに柵はあり内と外とを分かちておりぬ

〈七曲り通り〉を歩くこのうねり「ゆとり教育」「リーマンショック」

山林はひとを呑みこむものである踏み込みすぎたから家朽ちる

〈プロパティ〉ひらけばわが名が書かれあるエクセルファイルが古巣で泣いた

危ないから揺れないひつじの乗り物が地面に半分埋まっておりぬ