習作集一・三 余暇の福音 十八首

  余暇の福音

格差社会、少子化問題ならびたる社会福祉の書架をめぐりぬ

雨の日の図書館に本を重ね持ついつまで読むことくりかえすのか

姿のまま食ういさぎよさ天丼の獅子唐辛子はきゅうきゅう鳴くよ

二・五個のトマトで作りしジュース飲み〇・五個の行方を思う

傘もたぬはイギリス流と言いながら極彩色の雑踏走る

ビニールの傘はライトにひかりおりクラゲに似れば海に放るか

梅雨の夜に本湿りゆく芥川を美男と言いし君を思い出づ

白黒の文豪たちの顔ならぶスマートフォンの電池きれそう

水以外いらぬと棘をもつアロエ花開かずにいつまでひとり

紫陽花のむらむら増える雨の夜にむずかゆくありわが体内も

自らのカルテにこつこつ記録するわが血圧のゆるき上昇

わたくしの日記のなかで黙々と本読む男が日記書きおり

濃厚な霧のようなり中華屋の肉の脂が揮発している

目の前のもちもちの革をまといいる餃子は合成獣の顔せり

体内に獣のあぶらを含みもち五百円払い出る中華屋を

直角に肘を曲げつつ曲池なるツボを押しおり水面乱せり

まばゆきは新宿の街ケインズは「余暇の福音」信じて死にき

ケインズもミルも否定する本を返却ポストの闇へと放る