習作集一・一 魚編 十二首

  魚編

積み上がる資料の束は循環し回帰しわれのいさらい拭わん

爪と指のあいだに銀の針を刺すそんな皮肉をあたためており

つり革と乗客はそれぞれに揺る労働は喜劇だと気づいたか

社会的距離を伸ばして山奥に消えた男は民俗めいて

からっぽの電車は走る出生と死亡のあいだの人生の価値

狭山茶の味のかなめは火入れらし夕陽は街を炎につつむ

魚偏にうめつくされた湯呑あわれ熱き茶で口をぱくぱくしおり

「寿司店の美味しい日本茶!」間違いはないけど〈カートに入れる〉は押さず

菓子盆の亀屋の最中に投げかける鳶の眼光鷹の爪われ

朝を呼ぶスーパーカブは止まったり走りだしたりまれびとのよう

〈放置ゲー〉は勝手に強くなるゲームわが庭のアロエ棘のかいぶつ

クラスターは議事堂内のミドリムシ緑のかたまりぼとんと落ちる