かなしい花いちもんめ 一首鑑賞

  南部の土掘って新基地埋め立てへ父の遺骨の花いちもんめ 田村広志「うた新聞」(二〇二一・六)

 沖縄の基地移設問題で具志堅隆松がハンガーストライキをし、田村も三日間それに伴うという体験が下地にある。しかし、この歌のかなしさは何だろうと考えたときに、〈南部の土〉というのに遺骨が含まれていることがある。南部という本州ではなく沖縄のトポロジーと、土という生命感のあるものが、新基地という無機質なものへ運ばれるというところにかなしみがある。埋め立てられる場所で珊瑚礁や生態系が破壊されるということは耳にし、ニュースでの映像も痛々しいものだかが、埋立のための土を詠った歌を読むのは引用歌がはじめてである。そして、結句の〈花いちもんめ〉もかなしい。言葉は詩的だが、政府は結局遺骨を安く見積もっているということだ。この連作に通底するかなしみは怒りを通り越したものだろう。歌を読むことを通じて、行動しない自分も含めて、改めて考えさせられる。