『かたわらに 沢田英男彫刻作品集』(二〇二一・三/亜紀書房)を読む

  無垢の木片の上部がトルソーのように彫られている。顔はないがなんとなく悩んでいる・ぼうとしている・眠たげだ・落ち込んでいる・もしくはどれにも当てはまらない。本書は彫刻家沢田英男の彫刻作品集だ。木片で多くの人物を彫っている。木の素材をそのまま生かして胴を表現し、必要に応じて彫ったり着色したり焙ったりしているようだ。木片というささやかな素材から、一人の人間が生まれる。英雄のような大人物ではなく冒頭のようなひとりの裸の人間である。その人間を自室に迎えるならコーヒーと気の利いた世間話でもしたくなるような存在感がある。筆者は街ゆくひとを眺めたり、友人を探すような気持ちで鑑賞した。沢田の作品の方が静かなのだが、五百羅漢像を眺めるのに近いものもある。

 木の彫刻はハレよりケのものだ。本書前書きには「私は街の彫刻屋になりたいと考えはじめていたのかもしれない」とある。生活の片隅に存在し、人生の至るところでともに考えてくれる彫刻、そんなものがあるなら沢田の作品かもしれないと思わされた。