転生をかさねて鰈蝶と魚くつついたやうでかなり怪しき 渡辺松男
鰈は蝶と漢字もうす平べったい形も似ている。転生をかさねてというのが、輪廻転生的な意味であっても、遺伝子操作であっても重ねることで、異形になるという歌である。
魚になりたかった蝶か、その逆か、悩んだ末何度も魚と蝶を行き来したのか。そんな一回の生を超越していくうちに本来の生体から離れていってしまったという少しグロテスクなおとぎ話のようにも読める。
〈かなり怪しき〉は奥行きのある言葉である。グロテスクなりだと広がりがない。怪しきという斡旋から、怪しいのは見た目だけではなく、精神性も含めて怪しいのだとわかる。そして、それが悪だとも言い難く道徳的に倫理的にも微妙なものであることを示唆している。
韻律面からは二句切れになっており、意味の切れ目と相まって不安定さがある。少し不安な上句から始まり、かなり怪しい結句まで展開するところも、魚か蝶か定まらないことをあらわしている。