カツカレーを食べたこと キッチンクルミ

 キッチンクルミは地元の洋食屋だ。店舗は所沢のみにあるはずだが、遡ると昭和初期に神田で創業したらしい。クルミではオムライスやポークジンジャーを頼むことはあったが、カレーはどうしても優先順位が低かった。なぜなら洋食屋のカレーは東京會舘が一番だと思っていたからだ。しかし、洋食カレー歴は浅く、東京會舘が一番なのかは怪しい。本日はキッチンクルミでカツカレーを注文してみた。

  熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな 額田王

 ルーはグレイビーボートに乗ってくる。この日本式のスタイルがいい。カツカレー実食という船出である。今は漕ぎ出なとルーをカレーとカツレツに注ぎ込む。大胆に、しかし、カツの端はルーに濡れないよう繊細にかけるのである。ルーは玉ねぎがふんだんに使われている。野菜の甘みと旨味が凝縮されている感がある。カツは厚く、パン粉は細かい。とんかつ屋のパン粉は粗いほうがいいが、洋食屋は細かいほうが雰囲気にあっている気がする。カツカレーはボリューミーでカレー、カツ、カツ、カレーくらいのテンポで食べるとバランスがいい。途中で福神漬けやらっきょう漬け、水で小休止しながら食べる。カツカレーという大航海には小島での補給が重要である。さて、航海もじきに終わりを迎えようとしている。最後に宝箱のようなカツレツの端を食べる。ポークの脂身の甘みと、下味の塩コショウが旅の余韻を醸す。そして、大航海の白昼夢を覚ますのは、らっきょう漬けである。
 海なし県にカツカレーという海がある。