カツカレーと鷗外記念館

 鷗外記念館の講演は緊急事態宣言で空振り。とはいえ、鷗外には会いたい、そんなわけで普通に観覧することにした。その前に腹ごしらえということで恒例のコーナー「洋食バンザイ」。今回は千駄木駅近くの洋食屋レストランryuを堪能。昭和54年創業とのことで、バブル景気や平成景気など元気な東京とともにあるんできたであろう洋食屋さんである。近くには日本医科大学附属病院もあり医療従事者もきっとたくさん宴会してきたはず。昭和初期創業クラスの老舗は佇まいがこってりとしている印象があるが、本店はすっきりと洗練されている。
 ハンバーグが売りらしいが、洋食屋さんのカツカレーが好きなので、我が道を行くことにする。この店はチキンカツとメンチカツを選べる。カツカレーというとトンカツが多いので、チキンカツカレーは未知の領域かもしれない。
 カレーには素揚げの茄子、南瓜、ブロッコリーもトッピングされている。茄子やブロッコリーがソースに絡んで食感を楽しませ、南瓜の思いがけない甘みに舌が喜ぶ。ソースは意外にもさらっとしていて、スパイスの爽やかさと玉ねぎの甘みが際立つ。チキンカツはポークカツと違いあっさりしている。どちらかというとライスに近いというべきか、カレーと一体感がある。タンドリーチキンが美味しいようにカレーとチキンは合うと決まっているのである。
 筆者は迂闊なことにライスを先に食べてしまい、チキンカツを何切れか置き去りにしてしまった。何切れかのチキンをカレーに絡めて改めて食べる。美味い。失策どころか、チキンカツカレーと、洋風カリー油淋鶏を生み出してしまったようだ。
 さて、鷗外記念館は団子坂の上にある。短く急な坂だが、古き良き店やアパートメントが並んでいる。東京は坂が多い、余談だが筆者の地元所沢も坂が多く、二十三区といっても過言ではない。展示品をみて、万年筆は好まないという一面や、印章の多さ、明朝体のような端正な筆蹟など鷗外らしさを堪能し、図録やブロンズの鷗外メダルを購入した。三人冗語の石を見れたのも収穫だ。
 せっかくなので根津神社にも参拝する。その過程の裏道は薮下通りという。鷗外を尋ねる文士が後を絶えなかったとあり、恐れ多く歩く。文京区はどこもかしこも文豪の息遣いがあり、文京区ならぬ文豪区である。根津神社の道を挟んで日本医科大学附属病院がある。文豪気分を満喫していたのだが、数パーセント生業モードに引き戻される。
 短歌を通じて文学に親しんでいると、ついその瞬間瞬間の空気に飲まれて一喜一憂してしまうことがある。鷗外の顔が彫られているブロンズメダルは、読書の際の文鎮にしようと思っているのだが、そんな筆者を厳しくたしなめてくれるに違いない。